つま先から
崩れていくから
バレリーナは
砂が風にさらわれるときの
めまいのような問いに気づいて
逆子でうまれてくる
花の代わりに
おどることができるのは
水面に落ちる青葉のようなできごとで
肺が続かない
あれは
だから砂漠で溺れている
涙から森はうまれない
だれの水不足も
救えない涙滴を流出すると
身体は保たれていく
心は、ほんとうはもうここにはなく
少量の感情では間に合わず
とっくに粉砕されて
砂塵になって皮膚をはみ出し
海をめざしていた
一番下にたまる水が海だから
重力と風の控除で
集まった海は世界の本心を匿った
起こらなかったできごと
言われなかったことば
きれいにできた方をあげる
海の生き物たちを
その食物連鎖を
骨まで愛す
そうして
鰯の正直な群れ
と
反射光
左に
体重がのる夢をみて
朝のリズムを思い出したら
歌がなくてもいい
上あごと下あごのように
辻褄を合わせるだけで
呼吸は整う
砂時計の上下を返して
静粛に
今も逆子のまま
夕光が漂流してきて
かざらない額に触れた
朝が
はいってきた
海はめまい
聴く耳
きくみみ
そのかたち
『 砂 』
〔 現代詩手帖 2019.4月号 佳作 〕
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