エッセイ

Coci la elle の 日傘|うれしい雑貨

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持っていないものへの物欲を書き留めています。
欲しいものを欲しいまま、憧れを憧れのまま。いつかいつかと言い続ける文章です。
(商品レビューではありません。)

Coci la elle
日傘

持ち歩く日陰

暑い。熱い。暑いよ。

数日前、梅雨明けの情報を知らないままでもこれは梅雨が明けたんだなとわかった。家の中から窓の外を見ると晴れ方が違う。明らかに先週までと違う。梅雨の重たく続く暗っぽい空が、急に光源になった。まぶしい。

しかも最高気温がすでに35℃とか言う。洗濯物が3時間で乾く。室内から外を見ている分には気分も晴れる青空なのだが、[朝早くと夜 以外の時間]=[人間が一番活動する時間]に外に出ると、溶ける。思考も動きも溶ける。ちょっと人間ではいられない。

カラスだって常にくち(ばし)をぽかんと開けている。溶けている証拠だよ。カラスでもいられないよ。

信号待ちになると街路樹や電柱のわずかな日陰が私を生きながらえさせてくれる。邪魔だと思っていた木も電柱も謎のオブジェも影がメインで、この酷暑をしのぐために存在していたのかとさえ思う。

そして影のできる長さや角度を敏感に察知して、しばしば影のかたちになって立つ。そのくらい、あらゆる日陰が大事な季節になった。この時期の日向と日陰の体感気温の差ってとんでもないことになっている。

ヤシの木と電信柱が並ぶ道路

帽子は熱がこもるから、初夏はいいけど真夏はあかん。今はマスクで顔をほとんど覆っている上に、髪が密集して放熱しづらいという頭の構造、そこにさらに帽子をかぶせてはもう汗だく必至だ。ビジュアル面では夏こそ帽子が欲しいところだけれど、ビジュアルを最優先にするほどの余裕が真夏にはない。帽子を使うのに適した季節がいまいちわからない。

そこで、持ち歩ける日陰 こと 日傘の出番。日陰が自分にぴったりついてきてくれるのだから、夏に最強のツールだ。風も通るし。夏の直射日光を防いで歩けるだけで相当ありがたい。

最後の砦

今私が使っている日傘は折りたたみの晴雨兼用傘だ。もう4年ほどこの1本に頼りきっている。

UVカット率はたしか99%くらいあった気がする。布が厚くて、開くと日が透けない、しっかりと濃い影ができるようなやつ。それでいて薄い色、パステルカラーの組み合わせでできた模様。がっつり影をつくれるけど明るい色味、というのが気に入って買った。

本当に買ってよかった。日傘があるだけで夏の外出のフットワークが相当軽くなっている。日焼け止めを塗るのが億劫になっても日傘さえあればまだなんとか。そういう、出かけるための最後の砦になっている。

しかも急な雨にも対応できる。最近は急に雨が降ってすぐ止むことも多いから、晴れでも雨でも使える傘があるととても安心だし便利。もうこの天気の中この日傘を持たずに出かけるなんて無理だ。考えられない。それほどにこの日傘を愛用している。

その、私の唯一にして最後の砦に、穴ができていた。折りたたみ傘の折り目に沿ってぱりぱりと小さく破れている。なんてことだ…

本当は去年か一昨年か、そのくらい前から気づいていた。この日傘が消耗して破れはじめていること。

損傷箇所は小さいし、明るい色というのもあってか外から見たら全然わからないから、見ないふりをしていた。今でも外側からはたぶん傷は目立たない。雨漏りするほどの穴でもない。しかし内側から見ると、畳んだ折り目に沿って不安定な点線がぐるりとできていて、さらにその線が光っている。

星だと思うことにしていた。漏れている小さな光。ところどころ流れ星もある。

星空

友人の結婚式があったとき、しまった、と思うことがあった。

その日は晴れていたから、私は日傘としてこの折りたたみ傘を持ってきていた。そして帰り道の夜に一瞬だけ小雨が降ったのだ。私はいつも通りただただ持っていた傘を差したのだった。友人たちと一緒にいるときだったので、傘を持っていなかった友人を一人、この傘に入れた。

あ、と思った。
私の折りたたみ傘は街灯を透かして小雨の夜に星空を演出していた。

晴雨兼用の優秀さを実感するとともに、これはあかん、と思った。その友人は何も言わなかったけど、きっとこの星空が気になったことだろう。うっかりしていた。私はもう見慣れてしまって麻痺していたのかもしれない。傘に穴が開いているなんて気にならないはずがないじゃない。友人のおかげでようやくそう思うことができた。

それが、5月の話。そこから、梅雨入りして、折りたたみの晴雨兼用傘より長い雨傘が活躍していたのですっかり忘れて、7月。再びこの晴雨兼用傘を開く季節になった。日差しの向きに合わせて傘を差すから、内側にできている光の模様が他者からも自分からもよくわかる。

もうさすがに無視できなくなった。

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欲望ぐるぐる

実は数年前からずっと、この日傘のあとは(何代あとかはわからないけど)Coci la elle の日傘を買いたいと思っていた。

このお店を知ったのは石原さとみさんが出ている東京メトロのCM動画がきっかけだった。その時は長い雨傘が欲しいと思っていた。大きいビニール傘を大事に使っていたし、傘って意外と自分にどんぴしゃなものを見つけるのが難しいよなあ、とぼんやり思っていた。そんなときにとてもすてきな傘が目に入ったので調べてみたら、それが Coci la elle だった。

雨の日ってただでさえ暗いんだから傘くらい派手でもいいじゃないか、と思っているタチなので好きな傘屋さんがなかなか見つからなかった。ほどよく柄のあるちゃんと好みな傘ってなかなか見当たらない。だから見つけてからずっと頭の片隅で覚えていた。 Coci la elle 、コシラエル、傘、コシラエル…。

傘の専門店なだけあってつくりもちゃんとしていそう。日傘作家のひがしちかさんが描いた布地の柄が、とてもいい。好き。これは日傘も雨傘も欲しいぞ、と思ってもう数年経ってしまった。

ここは一点物の日傘からはじまったお店だそうで、お値段は傘にしては高い。でもいつか、いつか雨傘も折りたたみ傘も晴雨兼用傘も日傘も、揃えてみたい。それほどまでにどんぴしゃ。私は欲しい欲しいと言い続ける。

その第一歩として、まずは晴雨兼用の傘に手を出そうと目論むことになった。傘ってちょっと消耗してても機能としては使えちゃうから、買い替えの優先度が下がりがちだった。それをせっかく買い替える気になったのだ。タイミングはやってきた。あとは楽しく決心するだけ。

今使っている晴雨兼用傘は折りたたみの折り目から傷んできていたから、次の日傘は折りたたみじゃない晴雨兼用にしようと思っている。旅行に持っていくとかでない限り、移動中にいちいち折りたたみをきれいに畳むのは手間だった。

でも晴雨兼用の傘って、風雨にさらされ直射日光をがんがん浴びる、積極的に朽ち果てにいっているみたいな代物だ。折りたたまなくても普通に数年で傷むものなのかな。いいお値段するし長く使いたいんだけどな。コスパ…うーん。

そうなると、使い分けたくなってしまう。旅行や荷物が多いとき用の折りたたみ晴雨兼用と、日常生活に便利な折りたたまない晴雨兼用。そして雨傘。ハンドルがまっすぐな兼用じゃない日傘にも憧れがある。

考えるといろいろ欲しくなっちゃう。だめだめ、集中。目下、晴雨兼用折りたたまない傘。

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傘はくるくる

本当に、見れば見るほど素敵な傘ばかりだ。永遠に見ていられるのはなんなんだろう。画像で見ているだけでこうなんだから実物を見たら感動しちゃう。唯一無二の柄、布の質感、職人さんのつくる傘のきれいな線。いい傘っていいな。

そもそも傘ってずるいタイプのアイテムだ。存在感がある。日常の必需品でありながら絵になるフォルムをしている。私の中ではティーカップやポット、椅子などと同じ部類に入っている。実用性の権化であると同時に独自のかたちや比率を追求されてきた美しくずるい類のモノ。だからなおのこと、手仕事で追及されたいい傘に魅力を感じてしまう。

傘の布の柄はどうやら均一ではなくランダムに描かれているらしい。個体によって表情が違うものなら、ネットではなくお店で実物を見たくなる。時間をかけて吟味したい…。楽しい時間だろうなあ。

暗い雨のときでも、酷暑のときでも、見上げたくなりそうな傘ばかりだ。私にとっては辟易しやすいタイミングで使うことが多いのが傘だから、Coci la elle の明るくて自由なリズムの柄の傘をご機嫌に使いたい。メリーポピンズの歌でも歌いながら機嫌よくくるくる回しながら歩きたい。

そう、傘はまわすものだ。

Coci la elle
日傘・傘

主宰
ひがし ちか