あんなに降ったのにカラッとしやがって
乾いたのは空ばっかりで
肌に触れるのは残り物の湿気だけだったから
油断に拐かされていた
アスファルトが辺りを無視して
瞬間、私を刺し貫いた
光線、熱線、水没、失明、
死ぬ瞬間をみたのだと
当然におもった
身体の全面に受けた傷は
見ればほんの小さな穴で
針と糸が通り抜けて、そのまま、
高い空へとそれは伸びた
空を真ん中で割る
飛行機雲がよぎる
身体は風穴をもってしまったから
ちいさいといえど穴になっていて
気圧と気温にあおられるまま
ひと夏の変動を内臓に受けいれる
一体化するといちまいの帆のように
私は夏を患った
風を巻きあげて遊ぶのは
私ではないはずだ
身体が熱いのは身体が夏だから
雨あがりの草のにおいも
つねに溶けかけのアイスも
柔らかくはない潮風も
そこをとおる松林も
夏だけのものではないし
それらを私は知らないはずだ
見たこともない文字が読めるような
そんな、追えない熱を帯びる
追いつけないエンジン音が降って
遠くに行けない分
遠くへ向かうのだ
((北半球
汗 かかない
のど 渇かない
かき氷 恋しくない
波音 今じゃない
炭酸 今じゃない
花火 今じゃない
……
南半球))
夏にあわせて私が形を変えても
夏が私を帯びることはなかった
搾取、職権乱用、強制わいせつ
夏は逃げのびる
重要なのは
一方的な声に
耳をかさないこと
余罪を追及せよ
電話があったら疑って
傘を
忘れないで
従わない
抵抗しつづけるから
夏が強いぶん
夏休みがたのしい
卑劣な夏の空に
突き抜けた
私の代わりに
私を消費して
思いきり飛びまわって
破壊と、
衝動の。
『 水たまり注意報 』
〔 現代詩手帖 2018.9月号 佳作 〕
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