鳥のさえずりが聞こえはじめて、そろそろ雨が止むところ。滲んだら、見えやすい方角から電車がやってくる。周囲の色とは違うできごとを光と呼んだのだから、実意がそちらへ途切れてゆき、やがて水枕の不確かさへと落ち着いた。うそでも、ほんとうでもない現象。言葉。水枕は静脈のはずみで、硬水というよりは軟水の。そうして、相対性のことを忘れた。
毎夜十時、夢で待ち合わせだから、三十分前には布団にくるまり瞼をおろして、水のような駅を空想する。まつ毛の先、無いものへの憧憬。それは心強い色になるから持ち寄ろうね。つま先は不意にスリッパを追いかけてしまい、次の日かかとはそっと階段に注意して。部屋をいくつもまたいだら、服を着替えているはずだから、人違いからはじまってみる。
陰でしかない表情が好きだ。朝焼けとも夕暮れともとれる時刻、日の光はくだものナイフの仄暗さをほんのいっとき思いやることができる。ナイフの先へとぽたりと落ちたやわらかな、恣意だったもの。触れて。瑞々しさは逆再生、かわいいふりをしてすれ違う。逆光の鋭い縁だけで十分に美しかったから、他人というのは輪郭でできているのだろうと思う。ひとつをふたりでたべる、それから、はじめましての合図を決めよう。
相対性を忘れて、すべての逆のことをほんとうはもう理解できない。それでも身体は全方位自分であろうとしていて、頭が上でも下でも、逆子と言える気がしたよ。モビールのような人。誰も興味もないひずみを、きっとひどく愛して、
『 待ち合わせ 』
〔 現代詩手帖 2019.7月号 佳作 〕
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