気化熱の紫陽花

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一冊 ふいに 傾いた
本棚の その直立の 裸足たち
風に吹かれてみたかった
パタンと 月にたよる と
ひたいの 栖に
少女を帯びたような

記憶の 内耳に 湖底を飼うこと
濁音の手前
いつもすこし届かない言葉を
淡水魚が つついて遊ぶ
やがて発語が滲んで 光景になると
雨 あらゆる
沈黙を滑り、り り

真実の 距離感で 傘をまわしている
外に出たかったから ひとりで過ごしていた
大事にしていたのに
去年の花火がひとつふたつ
雨に はぐれていることに気づく

光だけ 水溶性だった
接する つめたく
色移り
いつも知らない紫陽花
その変温にすこしだけ気持ちをのこして
夏の未熟が
表面張力している

『 気化熱の紫陽花 』
   〔 ココア共和国 2020.9月号 佳作 〕