机上の空論

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スリッパをどこかに置いてきたようだ
ギターの曲線のことをかんがえていたら
テーブルが地球上にあまりに不似合いに平らか
振れる弦もないので
夜の波打ちぎわのこまかい泡になりたい
あいかわらず
自分を見るのが苦手で
ブラックよりもカプチーノを好む

シーリングライトが不都合な太陽みたいに感じられて
ぼくが消えるしかないような気がする
光源は見たくない
間接照明で埋めつくされたい
たどたどしい明かりばかりに包まれれば
どこから見ても掠る程度に立体的な
ここにはぼくがいるだろう
消えきれないひかりを
星とよぶとき
ぼくらは移り気な鱗だ

さっき、口笛を、たばこ代わりにふかして
久しぶりだなぁ。なんて思っていたら
重力を集めて加速、最も遠い円をめざし、
ゴンドラのように愛されるシーツを押し上げ
一周して
いま、ぼくの切りたてのえりあしをそよいだ
気温よりも安らかな
風の体温をさぐること
地平線がどこよりも季節をさきどりしていると知って
まるごと遡って行きたい
直線に追いつけないのは
世界が丸いせい
青くなりきれないのは
大人よりも、狭い角のせい

泣くことも笑うことも
等価交換だ
左右のちがわないスリッパ
片方だけ見つけても
欠けた鱗のように過多

『 机上の空論 』
    〔 現代詩手帖 2018. 11月号 佳作 〕