エッセイ

シュークリームで英雄に

食 サムネイル
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(2019/02/18 の日記 をお試し投稿)

あの店の、シュークリームが食べたい。

突然、心の声がはみ出した。無性にシュークリームが食べたくなって、買いに出かけた。そこに理由などない。ただひたすらに欲求。

徒歩で片道10分ほどのところに、私の、それはもう大好きなケーキ屋さんがある。

そのお店は、お菓子作りも販売も、店主の方がひとりでやっておられる、おしゃれな個人店だ。

そのお店の洋菓子はどれも丁寧に作りこまれており、シュークリームも例外ではない。

あのシュークリームを想像しながら、私は青空の下を闊歩した。

そうしてお店の前まで行くと、Close の看板がかかっていた。

なんということだ。下に、11:00 Open と書かれていた。

CLOSED

私は家を出る前に時計で時間を確認しており、そのときすでに11:30をまわっていた。

そうして家を出たのだ。

だから冷静に考えれば(考えなくても)、今が10時台であるはずがないことはわかる。

わかるはずなのだが、看板を見たその一瞬で冷静さをその場にぶちまけたのか、私は反射的に携帯で時間を確認した。

やっぱり11:00は過ぎていた。

外から見える店内は、いつも通りショーケースにケーキが並んでおり、準備中という風でもない。

しかし小心者の私はドアを開けるのをためらった。

今日は予約のホールケーキが多く、忙しいのだろうか。

この近所には、本日2月18日にバースデーを迎える人がたくさんいるのか。

幼稚園も近いし(←?)。

バースデーというスペシャルな響きを前にしたら、この365日いつでも起こりうるシュークリーム欲なんて、河原の石ころ同然である。無念。

HAPPY BIRTHDAY

ほんのりコンビニの方に歩きかけた。

心の中でこのバースデー地区に歌と拍手をおくりながら。

私は今日、見た目は大きく中身の空洞も大きい、値段は小さなコンビニシュークリームを買うしかないのか。

シュー生地の表面にザラメが焼かれしかしそれは粉糖で隠れておりほどよくさっくりとするシュー生地と、決して重たくなくまさに優しいクリーム色なカスタードクリームがぎっしりと詰まった、あのシュークリームは、あきらめるしかないのか。

今日の気分はこのお店のシュークリームなのに。

いやしかし、今まさにバースデーケーキを作っているのか。バースデーの準備が整おうとしているのか。

私は、せっかくのバースデーに水を差すような人間にはなりたくない…。心から祝福できる人間でありたい…。

だぶん異様にゆっくり歩く人だった。

4歩考えたが、あきらめきれなかった。

せめてドアに触ろう。鍵がかかっていたらあきらめよう。やらない後悔より、やった後悔。

行動を起こせ、若者よ。

結論、お店は普通にやっていた。ドアに鍵はかかっておらず、普通に入店できた。看板をOpenにし忘れていただけらしかった。良かった。

さっきのおそーい4歩(往復8歩)は無駄だった。

歌と拍手もほとんど無駄だった。

しかし、当初の目的は果たされ、欲していたシュークリームをゲットすることができた。無駄だとわかったことを喜ぼうじゃないか。今夜は宴じゃ。

そして、自分の欲望のために人のバースデーを邪魔する、邪悪な大人から一変、今日一日のお店の売り上げが0になるのを阻止した、善良な大人になった。今夜は宴じゃ。

ちょっとした自分へのご褒美と称してシュークリームを買い、ヒーローになって帰ってきた。そして戦利品のシュークリームをほおばった。

私はこうして今日もまた、自己肯定感を保つのであった。

おしまい