愛想笑いのような選択ばかりしてきたから
氷のきれいなアイスコーヒーで
憧れと見栄を流しこんだ
クッキーをかじると
砂上の鍵は
海面を舞うザトウクジラと
少しも違いはしないと思える
コーヒーによく合いますよ
だれにでも言っている店員の
無性の声音のあかるさを
カラン とあっけない音は
真似ることができただろうか
小さくも豊かな冷蔵庫
そのコンセントの奥には
水琴窟があって
思いがけず海を見かけた日の午後は
耳から星を
みつけたくなる
ぱちぱちと弾けて
ひかえめに目が合うそれを
気づかないふりでやり過ごすのは
ただの照れ隠しだ
証拠に
クリームソーダを目の前に置き
あとはじっくり満足していたい
テーブルのふちに沿うよりも
ヨットの広い帆のように
なびくシャツの白い裾
立ち去り続ければ人は風だ
花の幸福の薫りを模して
あくまで照れ屋に
すべての気象とすれちがう
深い海でのできごとを
星空みたいに描いてしまって
すくんでいる
そのことが
無為に
人
『 星と水琴窟と 』
〔 現代詩手帖 2019.8月号 佳作 〕
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