夏をつくるひと部屋にて

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風圧
それは罪にはないかたち
どこかで部屋は開封されて
それなのにきみは蛍を久しく見ていない

行かないで地動説
知ってから
星があんなに遠くなった
夜中のコンビニにはたどり着くのに
昼間のパン屋がわからない
きっと顔を隠しているからだろうが
希望はそちらから
名乗ってほしい

汗かいて
バニラアイスを食べて
喉が渇いて
身体はいつもなにか追いかけて夜更かしをする
かつて蛍は鉱物の眠気に生息していた
決して追いつかない夢は逃げる夢より明るく見える
走れど
重力にまばたきがあって
冷蔵庫からは
ふたつ製氷した音
引っ越したこともあるように
一切の鍵と箱は
蛍の質感を増す
壁の模様が気にかかる
真新しい寝ぐせ
四季はただしくは4種の皺というだけだ

風圧
どこかで開封されて
スイカの風鈴が二音横に鳴り残る
あらゆる4桁の番号
たぶん外ではフィルムカメラが欲しくなる
宅配ボックスはとても便利だけれど
開けて蛍がはじまればいいのにと思うよ

きみは切実なはさみの呼吸で
(今は水草のように)
光に向かって
水を飲む

『 夏をつくるひと部屋にて 』
   〔 ユリイカ 2022. 10月号 佳作 〕