星済み

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夜より深い
宇宙の黒に蓋をして
持ち帰ったものが墨である
これはもちろん
文明
夜が明るくなってからの話であって
平安時代
墨は夜から採り放題だった
さわれる夜がしっかりと
どこまでも濃さだけだったから

稀に星屑が微量
まぎれてしまうのはしかたのないことで
文字に押されて
極微な流れ星ができる
(筆先の自然な動物たち)
身近な夜に
つのる星々を見慣れていない脳裏には
崩し字は読めないでしょう、
書けないでしょう

見惚れるだけって静かだ
言葉なんか持っていなかった
片想いは悲恋にもならない
月には夜しかない

深い黒は
うすめてもうすまらないから量産できる
白夜の薄墨は
純度の高い月のかなし、一級品
素人には扱いきれないこころだから
また夜を明るくして
安価な薄墨を採る
(需要がある)

太陽は永い炎症のように朝そのもので
燃え殻はだから夜への一途
手をあたためながら文明は
まだしばし続く つづく
(すべていつか遺書になれる)

『 星済み 』
   〔 現代詩手帖 2019.11月号 佳作* 〕