(2019/02/19 の日記 をお試し投稿)
シュークリームが食べたいって、どういう感情なんだろう。
シュークリーム。シューとクリームである。英語で言うとクリームパフ。クリームとパフである。
私は昨日、突発的にシュークリームが食べたくなった。
なにか特定のものを無性に欲してしまうときってあるよね。それが昨日はシュークリームだった。
でも考えてみると不思議だ。
たとえばカスタードクリームをお皿にのせられて、それをどうしても食べたいと思っただろうか。
カスタードクリームはご存じのとおりシュークリームの中身だが、お皿の上にどんなにきれいなデコレーションで出されても、カスタードクリームだけでは、きっと突発的に食べたくなって買いに行くほど欲しくはならない。
私はたぶん、そこまでカスタードクリーム好きではない。
同じように、シュー生地単体でもきっと買い求めには行かなかったと思う。
クロッカンなるシュー生地だけのお菓子が存在するが、あれはシュー生地だけを味わうために改良されたものであり、シュークリームで使われるシュー生地とはまた違うものとみなす。
シュークリームにクリームを入れ忘れたものを想像してほしい。
あれが恋しくてすぐに行動を起こすほど、私はシュー生地が好きではない。
それぞれ個別で出されても、大して食べたくならないのだ。
それなのに、一緒になったシュークリームは欲するのである。不思議だ。
しかも、ディップではだめなのだ。
シュー生地とカスタードクリームが別々になっていて、クラッカーにジャムをのせて食べるような形になっていたら、きっとわざわざ買いに行くほどではない。
バイキングとかで見かけたら一口分くらいとってみるかもしれないけど、あくまで脇役だろう。同じ味なのに。
シュークリームって、普通ではない。
包まれている系の食べ物はほとんど、中身を皮になるもので包み、火を通して、そこではじめて食べられる状態になる。
おまんじゅうも小籠包もカレーパンもそうである。
それなのにシュークリームときたら、皮は皮で火を通し、中身は中身で火を通し、できたシュー生地にカスタードクリームをぶすっと注入するのである。
普通ではない。
きっとスポンジ生地を作る場面だったら、目指す成功例は滑らかでふわふわな生地だ。
数多の職人たちが、小さな気泡が均等に細かくはいったスポンジ生地を目指して、試行錯誤するのである。
それがシュー生地になると、そんなことお構いなし。
スポンジ生地の常識で言ったら、すべての気泡をひとつにまとめたようなあれは、完全に膨らみ方を間違えている。
もはや生地よりも空洞の方がメインだと言いたげである。
お菓子のレシピ本でシュークリームの作り方を見かけたことがあるが、シュー生地を作るのは大変だ。
手間がかかっている。そのわりに、生地の存在感の薄さである。
生地が空洞にのっとられている。
レシピ本には、生地がうまく膨らむかどうかが重要だと書かれていた。
そのために手際よくうんぬんかんぬん。
膨らみが重要なのはスポンジ生地も同じだが、スポンジ生地は、気泡部分も生地とみなせる。
気泡も食べているとみなせる。
しかし、シュー生地の気泡はもはや空洞で、私は、あの空洞部分を生地とはみなさない。
空洞は食べない。
カスタードクリームにしたって、卵やバニラビーンズなど、素材は贅沢に使われるが、所詮クリームはクリーム。材料なのである。
生クリームやバタークリームなどと同様、単体でメインのデザートとして、完成品として、出てくることはない。
それが、注入されるとあの存在感である。
シュー生地はそれ単体では、ひ弱でなんの影響力もないモブ中のモブである。
風ですぐ飛んでいきそうだし。
ところがカスタードクリームを注入したとたん、あいつは覇者になる。
さっきまで空洞にのっとられていたうっすいシュー生地が突然、ずっしりとしたカスタードクリームを支配する、キングになるのだ。
そしてカスタードクリームも、やる気のなさそうなでろーんとした村人Aから一変、中身になることで、突然中身としての誇りを持ち、キングの親友兼右腕に昇進する。
シュー生地にカスタードクリームを注入した瞬間、シュークリームは堂々とするのだ。
あの存在感はどこからくるのか、まったくわからない。
私がシュークリームを食べたくなったとき、思い浮かべたのは動きだった。
噛まれ、挟まれてつぶれたと見せかけて、クリームがどわっと溢れ出し、また生地が元に戻る、あの動きだった。
とくに最初の一口目、シュー生地しか見えないところにクリームがお目見えする、あの瞬間。
シュー生地とカスタードクリームが一緒になったあの味が食べたいというよりは、あの動きを食べたかったのかもしれない。
結局あの動きが、シュークリームというお菓子のメインなのでは。
あの動きをしているときのシュークリームは、シューとクリームが合体した時以上に、生き生きとしている(ような気がする)。